vol.39 鉄道の日に寄せる短編小説《時代》第3話・完

10月14日のバンビオLIVE vol.2、そして鉄道の日にちなんだ今回の短編小説《時代》。
第1話で登場した鉄郎の物語と、第2話で繰り広げられた往年の蒸気機関車《シロクニ》の歴史が
今回、リンクします。
どうぞお手元に、バンビオLIVEのチラシのご準備を。
BGMには、もちろんゴダイゴの銀河鉄道999が外せませんね。あ、百恵ちゃんも登場します。
そして、長岡京駅で出会ったあの、ロシア人風の美女の正体とは・・・?
Tb中川氏渾身の最終話、どうぞお楽しみください。

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「お父さ−ん。 チケットありがとう」。
鉄郎は 家族と一緒に 夕ご飯の食卓を 囲んでいた。

「あのさぁ。 昨日 駅で こんなチラシ配っていたんだけど
 お父さんも一緒に コンサート行こうよ」。

鉄郎が父親に そのチラシを見せていた。
そして 高校生の姉が そのチラシを覗き込んでいる。

「まぁ− かわいいチラシ−っ」。
「えー どれどれー」。
「吹奏楽団せせらぎ バンビオ LIVE!ってかー」。
父親は 左手に そのチラシを持ち
右手には なみなみと 注ぎ込まれ美味しそうに泡立った ビールのグラスを 持っていた。

そのチラシの裏面には
{こんにちは 吹奏楽団せせらぎ です}っと書かれ 楽団の紹介なんかが書かれてある。

父親は 右手の美味しそうな そのグラスを 口へと運んで 一気に飲み干した。
すると 高校生の姉が父親から そのチラシを取り
「入場無料だって」。
「プログラムは 真夏のSoundS good!。風が吹いている。うみ。
 また君に恋してる。プラス 金管アンサンブルステージ だって」。

そして 曲名の左に描かれている絵を見て 「何コレ?」。

再び父親が チラシを手にすると その絵を見て
「ほぉー いいねー」。と言って ニヤニヤと笑っていた。

鉄郎は
「お父さん!今度の日曜日 10月14日は!お仕事 休みだよね!
 コンサート行こうよ!」と言うと。
「10月14日だったら 記念日じゃないか!」。
「ねーねー!記念日って 何なの?お父さーん」。高校生の姉が言った。
父親は ゴクゴクと のどを鳴らしながら ビールを胃袋に流し込んでいる。
「ひょっとして お母さんとの結婚記念日?」 と再び高校生の姉が言うと
「いや違うよ違うよ。
 お父さんと お母さんの結婚記念日は 5月31日じゃないかー!」
父親が グラスに ビールを注ぎながら言った。
「じゃー 何なの? お父さーん。 記念日って。ねーっ」。
父親は グラスに注いだ美味しそうに泡立った そのビールを
再び一気に飲み干すと 二人に話した。

「むかーし昔 明治の《時代》にさー 東京の新橋っていう所から 横浜まで
鉄道が開通したのが 今から ちょうど140年前の
1872年 10月14日だったんだよ」。

父親は箸で 好物のメザシを摘みながら言った。そして そのメザシを口に運んだ。
すると鉄郎は
「あー そうなんだ! 10月14日は《鉄道記念日》なんだ! だから このチラシに
蒸気機関車が客車を引いて 夜空を飛んでいる 絵が描いてあるんだ!」。と言った。
そして 高校生の姉が そのチラシを見ながら
「じゃーさー このいっぱいのキラキラ星って 銀河なのかなー?
銀河の夜空を蒸気機関車が走ってるんだ。
それじゃー 宮沢賢治の《銀河鉄道の夜》じゃん」
と言うと 父親は「山口百恵の《乙女座宮》だよ」と言って
「♪♪さーああー 流星に乗ってー〜銀河大陸ぅー 横断鉄道ぉ 〜〜ぉぉ♪♪」
と酔っ払いオヤジは歌い始めた。

「お父さん! 今度の日曜日は バンビオライブ行こうよ!」。
「よーし じゃー今度の日曜日は みんなでコンサートに行こう!」 と父親が言った。

と その時 高校生の姉が「あーちょっと私 友達と約束してるんだぁ」
「あっ!お姉ちゃん。 もしかして。 デート!」
「コラ!!」姉が 鉄郎の頭を 軽くゲンコツした。
「もう お姉ちゃん!!何するんだよ!!もう!!痛いじゃないかー」
「オイオイ喧嘩を するんじゃない!お母さんが 見てるぞ!」。
「それで お前 彼氏がいるのか」と父親が言うと 高校生の姉はニヤニヤと笑っていた。
父親が 話を聞くと 彼氏は 凄すぎる程 鉄道と 音楽が 大好きらしい。
「じゃー 今度 日曜日に紹介しなさい 一緒にコンサートへ行こう!」
「えっ いいの?お父さん!」

鉄郎は 母の遺影を 見ていた。
「お母さんも 一緒に行きたかったな・・・・」。

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10月13日の土曜日に父親が ある提案を出した。
それは 明日の《鉄道の記念日》に 京都の梅小路蒸気機関車館っていう
日本で最大規模の 蒸気機関車の展示スペースに 子供達を連れて行き
そして あの 銀河の夜空を走る蒸気機関車が 描かれたチラシのコンサートへ 行こう
という企画だった。
家族団欒の夕ご飯が 終わると 父親は《シロクニ》の話を始めた。

「お父さーん シロクニってカッコイイ? 早く走るのー?」。
「そりゃあ 早いよ!超特急《つばめ》の先頭に 立って走っていたんだから」。
鉄郎は 生まれて初めて見る その《シロクニ》の話を 目を真ん丸くして聞いていた。
そして 早く 明日に ならないかなと 鉄郎は 床についた。

鉄郎は 父親の話を 思いかえしていた。
《シロクニ》は 超特急つばめ の先頭に立った御褒美に
スワローエンゼルのマークを 張り付けて貰った事。
《時代》の流れで 北海道へ行った事。
そして SLブームの《時代》がきて 再び活躍した事。
でも その最後の活躍の北海道にも《時代》が 押し寄せてきた事。
そして 《シロクニ》のラストランで 有終の美を飾った事。
鉄郎は 眠れなかった。
床につく前に お父さんが言った言葉に 興奮していた。

「鉄郎!その スワローエンゼルの 《シロクニ》はさー
 明日 行く 梅小路蒸気機関車館に 展示してあるんだ」。

あの 北の大地で爆走していたスワロー エンゼルの《シロクニ》は
昭和47年10月14日 鉄道開通100年記念行事の 梅小路蒸気機関車館 開館のため
京都へ里帰りしていたんだ。

そして 父親は こうも言った。
「鉄郎!その《C−62型 蒸気機関車が あの 松本零士先生の 描いた
 『銀河鉄道999』の モデルになった機関車なんだよ」。
鉄郎は 知らぬ間に 眠ってしまっていた。

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「鉄郎! この列車に乗るのよ!。
 鉄郎! もう 過ぎ去った事は 忘れるのよ!。
 鉄郎!この列車に乗るのよ!。
 鉄郎!これからは 前を向いて走るのよ!。
 鉄郎!この列車に乗るのよ!。
 鉄郎!この列車に 乗って 未来へ 旅に出るのよ!。
 鉄郎!私と一緒に この列車に乗るのよ!
 鉄郎!この列車に乗って 新しい未来へ・・・・」。

鉄郎は 長袖のワンピースに 黒いコート。そしてロシア人が 被っているような
毛皮の高帽子に 腰まである綺麗な長い金髪と 切れ長の目に 長い睫毛。
そして瞳はブロンズの 特徴的な美人に手を引かれ 銀河行きの その列車に乗った。
鉄郎は 「お母さん!」と 一言の寝言を言った。

完。 トロンボーン 中川。

vol.38 鉄道の日に寄せる短編小説《時代》第2話

さて、Tb中川氏による、鉄道の日に寄せる短編小説《時代》第2話をお届けするわけなのですが
念のため申し上げておきますと、
みなさん、ここは、吹奏楽団せせらぎのHPであります。
確かに、この楽団には少々血中鉄分濃度の高い団員がちらほらおりまして、
不定期に団内有志「せせらぎ鉄ちゃん会」主催の鉄道ツアーが組まれることもあります。
が、決して鉄道愛好会のページへ突然リンクされているなどということはございません。
大事なことなのでもう一度申し上げますが、ここは、「吹奏楽団」せせらぎのHPなのであります。

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この物語の主人公。
[吹奏楽団せせらぎ]に 纏わる全ての人々。
いや 鉄郎少年。えっ? それじゃ 黒いコートの謎の女性(^O^)/ 。
なんでやっ(゜o゜)\(-_-)。

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1年365日の たった1日。たった1日 この日だけはコイツが主人公でも いいだろう。
昔々 かつて 《東海道の雄》《陸の王者》と 呼ばれ
数々の特急列車の先頭に立った蒸気機関車。《C‐62型蒸気機関車》。

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みんなは 僕の事《シロクニ》と呼ぶ。
僕が生まれたのは むか〜し昔。昭和23年。
辛く悲しい戦争は終わってはいたが 敗戦国は アメリカ合衆国の統治下にあり
日本は日本ではない《時代》だった。
そんな《時代》に 僕は生まれた。

大国は 敗戦国に 新しい設計の機関車を 作らせなかった。
戦争中に軍事物資の輸送で活躍した
動輪軸4本のD型機関車 《D‐52》 デゴニ君のボイラーを使用し
戦前に 特急列車の先頭に立った
駿足の動輪軸3本の C型機関車《C‐59》 ゴーキュー兄さんの車輪を 取り付けて
完成させたのが 改造機関車《C‐62》 シロクニだ。

僕の兄弟は 全部で49台。その中で 僕は2番目に生まれた《C‐62 2》
通称『スワローエンゼル』。 僕のデフレクターには 燕のマークが貼り付けてある。
あの超特急《つばめ》の 先頭に立ったご褒美に 取り付けて貰ったんだ。
だけど 僕のボイラ−は あまり調子良くなかったから
《つばめ》の先頭に立つ機会は 少なかった。
でも 僕は頑張って客車の先頭に立ち いっぱいの お客さんを運んだ。
そして 日本の《夢と未来》を運んだ。

だけど《時代》は 僕を受け入れなくなってきた。

僕は 石炭と水を積んで走る。
石炭を燃やし ボイラ−で お湯を沸かし その水蒸気でピストンを押し それで車輪を回す。
16気圧に ならないと 僕は 走れない。
モクモクと煙りを吐き 火の粉を撒き散らし トンネルの中は煙たくて仕方がない。
長旅の途中では 石炭と水を補給する。
労働力と時間の無駄だ。 「タイム イズ マネー 時は金なり」。
僕は 効率の悪い《機械》だ。

《時代》は 電気の時代。
超特急《つばめ》の先頭には カッコイイ流線型の電気機関車
《EF‐58型電気機関車》が 立っていた。
長旅の途中 石炭も水も補給しなくていい。最先端の《機械》だ。
だけど このイケメン。名前は《ゴンパチ》だった。

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僕は 東海道から北海道へ 左遷された。

だけど僕は 寂しくなかった。
そこには 僕の仲間が頑張って走っていたんだ。
戦前生まれの《D‐51》デゴイチ君は 重くて長い貨物列車。
大正生まれの 《9600》キュ−ロク爺さんは 老体に鞭を打って
夕張で石炭を運んでいたんだ。
それから とってもスマートで 一番綺麗なスタイルの 《貴婦人》って 呼ばれていた
《C‐57》 シゴナナ姉さんが お客さんを乗せて走っている。
シゴナナ姉さんは京都駅で よく見掛けたもんだ。
シゴナナ姉妹は 215台も生まれたんだから いっぱい見掛けた。
彼女は 京都から山陰方面へも走っていた。
この僕なんか 図体がデカくて重いから 線路規格の低い場所には行けなかったんだ。
デゴイチ君や シゴナナ姉さんは どこにでも行けて羨ましかった。
みんな頑張って走っている姿を見たら 過去の栄光なんて どうでもよくなっていた。

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ある頃 僕は《ニセコ》っていう 急行列車の先頭に立っていた。
昔と違うのは 僕の弟《C‐62 3》との 共同作業だった。
僕の弟は とても調子の良い故障知らずで みんなから 信頼が厚い存在だった。
だけど さすがに 急な上り坂は 辛かっただろう。
そんな弟の 前で引っ張ってやるのが 僕の役目だった。
急行列車だから急いで走らないと。
僕も弟もモクモクと 煙りを吐きながら 頑張って走った。
そんな姿を 見たくて 全国から 人々が集まってきていた。
かつて《東海道の星》と呼ばれ 超特急や寝台特急ブルートレインの 先頭に立った
迫力満点の シロクニが 2台連なり走る姿は 圧巻だった。

《時代》は電気の時代。世の中から 効率の悪い《機械》を 無くしてしまおう。
無くなる前に この目で・・・・・・・・・・。

《時代》は SLブーム。
休日になれば 人々がシロクニを見にきた。 日本全国から見にきた。
僕は 再び 栄光を手にした。
東海道の《時代》より スター《星》になっていた。
僕は 弟と 手を繋ぎ 頑張って走った。雨の日も風の日も。
北の大地に降る大雪にも負けず 僕は 急行列車の先頭に立った。

そして再び 《時代》が・・・・・。
昭和46年9月。ラストラン。
僕と弟。そして13番目の弟《C‐62 15》。
なんて事だろう。シロクニが 3台連なって走るんだ。

係の人々が 朝早くから僕を 綺麗に磨いてくれた。
そして僕のシンボル。《つばめ》のマークも ピカピカだ。
僕の役目は 始発駅からお客さんを たくさん乗せてやって来る 弟の先頭に立って
上り坂を引っ張ってやる事だ。
僕は一つ下の弟と一緒に 13番目の弟を待っていた。
駅には 僕を一目見ようと たくさんの人々が集まっていた。

そして 父親らしき人が 少年に話ている。
「よく見ておきなさい。これが 超特急《つばめ》の機関車だよ・・・」。

彼のリュックには『まつもとれいじ』と書いてあった。

僕は 2台の弟の先頭に立った。
間もなく 発車のベルが 人々で溢れかえった駅構内に 響き渡った。

ジリリリリリリリリ〜〜ン。

僕は 発車の合図を 鳴らした。

ボォ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ。

もう この土地には帰らない。 人々にサヨナラの汽笛だった。
隣のホームに停車した 普通列車の シゴナナ姉さんが お疲れ様〜〜って汽笛を鳴らすと
操車場で貨車の入れ替え作業に 従事していた 大正生まれのキュ−ロク爺さんも
元気でな〜〜っ!ポ〜ッ ポ〜〜〜っと 汽笛を鳴らした。

♪♪ドードドーレミーミミーレドードドーラソー
      ラーラソーソドードミーミレーレミーレド−♪♪
シロクニが 出発すると間もなく 鉄道唱歌のオルゴールが鳴った。

「今日も 国鉄をご利用いただき ありがとうございます。
終点 函館までお供させていただきます 車掌の○×△□です。
長い間 この《シロクニ》を ご利用頂きまして ありがとうございました。
本日をもちまして《シロクニ》の営業運転を終了させて 頂きます。」

しばらく走ると 初秋の山麓へと近づいてきた。もう間もなく峠だ。
シロクニの運転助手が 大きなスコップで 一杯一杯の石炭を 焚き口に投げ入れている。
初秋の北海道とはいえ 石炭を燃やす運転室は 地獄の釜よりも 熱かった。
今日は コイツのラストラン。
運転助手の額からは ひたすらに 汗が流れている。
「オーイ!絶対 圧力を下げるな−っ!」 運転手は若い助手に 激を飛ばした。
若い助手は 首に掛けた 石炭で薄汚れた 純白であっただろうタオルで 額を拭った。
その 薄汚れたタオルは 乾く暇もなかった。
シロクニは 峠に差し掛かかると 再び汽笛を鳴らした。
ボォォォ〜〜〜〜〜ォ。
太い大きなボイラ−で 熱くなった蒸気が汽笛管を通り抜け
その野太い音が 峠に轟いた ボォォォ〜〜〜〜。

シロクニは 鉄の線路の上を 鉄の車輪で 走っているため 坂道では滑ってしまう。
秋になり 線路の上に落ち葉が乗り そのうえ雨が降れば最悪だ。
直径1メートル70センチもある 車輪が 1回 空回りすれば 速度は5キロ落ちる。
時速30キロ程で 坂道を上るシロクニの車輪が 6回も空回りすれば
たちまち 止まってしまう。
一度 止まれば もう その坂道からの発車は 困難だ。
再び 麓まで後退し 初めから やり直しだ。

僕は 時代遅れの《機械》だ。

シロクニは 峠への坂道を鈍い速度で上っている。
運転手さんが 左手で何かレバーを動かしている。
僕の煙突の後ろにある ラクダのコブみたいな形の砂箱から
車輪の直ぐ前まである配管を伝って 線路の上に 砂を落としていた。
空回りを防ぐためだ。そして 運転手さんの腕の見せ所だ。
シロクニは 真っ黒な煙りをモクモクと吐き
かつて東海道を 颯爽と駆け抜けていたとは感じない程 鈍い速度で 坂道を登ってきた。

だけど 3台のシロクニが見えると 人々は 大きく手を振り 人々は サヨナラを伝えた。
《シロクニ》は たくさんの客車を従え 人々の前を走り抜けた。
カタン カタン。 カタンカタン。
線路と線路の繋ぎ目を 最後尾の客車の車輪が 通過した。
つい 先程まで シロクニの煙りと ピストンを押す蒸気の音。
それに列車の通過する 車輪の音。
そして シロクニの汽笛で騒がしかった峠に 静かな秋風が吹いている。
線路脇のススキが 何事も無かったかの様に 秋風に その身を委ねていた。

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峠を越えたシロクニは 終着駅 いや《時代》に向かって爆走している。
さすが平坦な鉄路では 本領を発揮していた。
沿線では 《最後のシロクニ》に 手を振っている人々や勇姿を永遠にと 写真に収める人々。
《シロクニ》の 思い出に浸る人々で 賑やかだ。
《シロクニ》は 自分の《あの時代》を その手で掴んでいた。

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運転手さんが シリンダーへ蒸気を送る加減弁を 閉め始めた。
僕は 徐々に 速度が落ちてゆく。
徐々に 僕の《時代》が終わってゆく。
僕は 超特急《つばめ》の機関車だ。
僕の《スワロ−エンゼル》が 夕日に輝いている。
運転手さんが ブレーキレバーに手をかけると 僕は 終着駅のホームに その使命を 終えた。
そして 《蒸気機関車の時代》は 終わった。(つづく)

vol.37 鉄道の日に寄せる短編小説《時代》第1話

吹奏楽団せせらぎHPをご覧の皆様、こんにちは。
せせらぎの合奏風景をお届けするこのコーナー「せせらぎ人語」ですが、
すっかり名(迷?)物となってきました、Tb中川氏から寄せられる連載小説も
ついに3作目となりました。
今作は、10月14日(日)にJR長岡京駅前バンビオ広場公園にて行われる
吹奏楽団せせらぎの野外コンサート「バンビオLIVE! Vol.2」
にちなんだお話になっているようです。
10月14日と言えば・・・
そう、知る人ぞ知る、「鉄道の日」。
というわけで、本作の主人公はもちろん?あの名前です。どうぞお楽しみください。

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鉄郎は 今年 中学に上がったばかりの 少年である。
K中学校の吹奏楽部は コンクールも終わり 来年3月の定期演奏会の 練習が始まっていた。

今日は 隣町のN町に 初めて東京から T放送フィルハーモニィウインドオーケストラと言う
世界最高水準の吹奏楽団が やってくる。
この日を待ちに待った鉄郎は 誕生日プレゼントとして 父親から買ってもらった
この日5席しか用意されていない 1席2万円もする
スーパースペシャル特別ウルトラシートの 特典付きチケットを 握りしめ
夜7時からの開演に間に合うよう出掛けた。

鉄郎は バスを乗り継ぎ駅に着くと 先ずは腹ごしらえと考え
駅前のコンビニエンスストアで おにぎりと お茶を買った。
そして 店のベンチに腰を下ろすと おにぎりを頬張った。
若い胃袋は あっという間もなく おにぎり5つも たいらげると
ペットボトルのお茶を ゴクゴクと 喉を鳴らしながら飲み干したかと思うと
ベンチから立ち上がり 駅へ向かった。
鉄郎は 自動改札機に ICカードのデータを 読ませ駅構内に入り
目的地へ向かう電車のホームへと急いだ。

ホームに着くと 余程 嬉しかったのか
鉄郎は ポケットから 例のチケットを取り出し眺めていると
間もなくして 電車がホームへ すべり込んできた。
鉄郎は 手に そのチケットを握りしめ 普通電車のロングシートへ その腰を沈めた。
鉄郎は おにぎりの 満腹感と 心地好い電車の揺れで 少し眠ってしまったのか
気が付くと 隣に男性が座っていた。

その男性は ヘッドホンをしている。
そして そのヘッドホンからは 中島みゆきの名曲『時代』が 流れている。
かなりの音量なので迷惑だが その女性歌手の歌声と 歌詞が素晴らしいので
注意もせず聴いていた。
それから 数分で目的の駅に着くと
普通電車の ロングシートから 立ち上がり ホームに降り立った。
そして 鉄郎は駅名標を見上げた。

[ながおかきょう]。

その時 鉄郎の横を ヘッドホンの男性が 通り抜けた。

改札を済ますと 男女数人で 何かチラシを配布しているのが見えた。

「お願いしま〜す。吹奏楽団《せせらぎ》で〜す。ライブやりま〜す。
ぜひ 来てくださ〜い。吹奏楽団《せせらぎ》で〜す。
広場で《バンビオ ライブ》 やりま〜す。今度の 10月14日の日曜日で〜す。
よろしく お願いしま〜す。 吹奏楽団《せせらぎ》どえ〜す」。

先に改札を出たヘッドホンの男性は チラシを受け取り そこに描かれている絵を見ると
ニヤニヤと笑いながら 雑踏の中へと消えて行った。
鉄郎は ヘッドホンの曲が 耳から離れなかった。

と その時 ある事に 気が付くと 鉄郎は 顔から 血の気がひいた。

真っ青な顔の鉄郎の手には あるはずの2万円のチケットが無かった。

もしかして・・・・・・あの男・・・・。

その時 一人の女性が現れた。
その女性は 長袖のワンピースに 黒いコート。
それと ロシア人が被っているような 黒い毛皮の高帽子で
腰まである長い綺麗な金髪と 長い睫毛に切れ長の目が特徴的な美人だ。
そして その瞳はブロンズだった。

「このチケット 君のじゃない?
さっき 君が座っていた下に 落ちてたわよ! 気をつけてね!」

黒いコートの女性は ニコッ と笑みをうかべた。
鉄郎は そのチケットを受け取ると お礼を言いながら 深々と頭を下げた。
そして その頭を上げた時 その黒いコートの女性の姿は 消えてしまっていたのだ。

鉄郎は 一人ポツンと 駅のホームに 立っていた。
そのホームの古い電灯が その少年を 寂しく照らしている。

鉄郎は その不思議な出来事に ふと 夜空を見上げると
そこには 満天の 星空が広がっていた。
太古の昔から輝いている その星たちは 独りぼっちの少年に その光を 降り注いでいた。

鉄郎は その星空を 眺めながら思う。

あの 綺麗な人は 何処へ行ったんだろうか 誰なんだろうか
何故 消えて 居なくなったんだろう。

そう思った瞬間。何億万の星空から たった一つの星が流れた。

少年は 亡くした母を 思い出していた。(つづく)

vol.34 楽器を置いてしまった貴方へのメッセージ 《あの日に・・・・ 》 第3話・完

短編小説 楽器を置いてしまった貴方へのメッセージ 《あの日に・・・・》 第3話・完

(前回までのあらすじ)  (≫第1話 ≫第2話
仕事をクビになった主人公・博志は、学生時代に情熱を傾けたトロンボーンや、
お気に入りだった「ムーンライト・セレナーデ」のことを思い出す。
帰り道、いつもと違う路地を歩く博志が出会ったのは、
「せせらぎコンサート」のポスターと、音楽が聞こえてくる練習スタジオだった。
博志は、久しぶりに押し入れの奥からトロンボーンを取り出し、一人涙するのだった。

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「それでは 赤川博志さん。明日から勤務して 頂きます」

博志は再就職が決まった。
軽自動車に軽油を給油してから 1ヶ月が経っていた。

博志は 就職が決まった事で 気分が落ち着いたのか 町へ出て食事をした。
食事を終えて 町一番のショッピング センターで買い物をしていると
どこからか 音楽が聞こえてきた。
博志は その方向へ足を向け 辿り着いたのは
ショッピング センターの 多目的広場だった。

そこでは 近くの大学のバンドが 演奏を繰り広げている。
博志は 一つだけ空いてる席に腰を下ろした。
今 演奏されているのはベニー グッドマンのレッツ ダンス。
クラリネット奏者が フロントに出てソロを吹きだした。
博志は思わず 昔の自分と照らし合わせている。
自然と勝手に身体が動き スウィングしている自分がいた。
レッツ ダンスの演奏が終わると
クラリネット奏者が 買い物客の聴衆に向かって 挨拶をしている。
博志も そのクラリネットに拍手を送った。
それから デュークエリントンのA列車で行こう の演奏が終わって
司会者が次の曲を紹介した。

ムーンライト セレナーデだ。

演奏が始まると アルト サックスが 気持ちのいい ビブラートをかけながら
演奏している。博志は羨望の眼差しで見つめていた。

博志は立ち上がり その場を 後にした。

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「確か あのポスター。団員募集って書いて あったよな」

博志は もう封印してしまった 楽器を取り出し 各部分のチェックをした。
「何年も吹いてないからな。あの楽器屋 今でもやってるかなぁ。
もう 20年だからな」

博志は 楽器を片手に電車に乗り 大学時代に通った楽器屋へ出掛けた。
1時間半 電車に揺られた。

博志が 駅を出ると 町は変わっていた。

「やっぱり もう あの楽器屋 無いよな。もう20年だからな。
あの 定食屋も あのアパートも無くなってるんだ。
あの定食屋の おばちゃん いつもコロッケ2つ サービスして貰ってさ
優しい おばちゃんだったよな。でも おばちゃん 心臓が悪いって 言ったから・・・・」

博志は 駅前からバスに乗った。
バスは心地好く揺れていて いかにも田舎のバスだ。
都会から払い下げになった 型の古い大きなバスには
たった5人の乗客と もう定年間近だろう運転手だけだ。
博志も その乗客の一人だった。
バスの運賃250円を運賃箱に入れると
箱の中で動いているベルトが 250円を 飲み込んだ。

「あ〜 やっと着いたよ ホント 疲れちゃった」

博志が言うと 古いバスは黒い煙りを 撒き散らしながら ゆっくり走り出した。
楽器屋は ここから少し歩いた 道路沿いにある。

博志は 通い慣れた道を歩いた。楽器屋だけは 20年前と同じだった。

「ごめんくださ〜い!」
博志が言うと 奥から初老の男性が現れた。
ロマンスグレーの素敵な髪型でオシャレなのは20年前と変わっていなかった。

「お久しぶりです。スウィート スイングスの赤川です」
博志が満面の 笑顔で言った。
初老の男性は「よく 来てくれたね!」と言い 博志を招き入れた。

博志と 初老の男性は1時間程 語り合った。
「楽しそうなバンド見つけちゃったんです。 20年振りに バンドやろうと思って・・・・・」

博志は 初老の男性がメンテナンスした楽器を片手に
丁重な挨拶をし バスに乗り込んだ。
そして 型の古いバスは 再び黒い煙りを撒き散らした。
博志はバスの後ろの席からロマンスグレーの男性に手を振りながら
何度も何度もお辞儀をした。

ところがバスの黒い煙りで男性が見えなくなってしまった。

その時 風が吹いた。
古いバスが 撒き散らした黒い煙りは 一瞬にして無くなってしまい
再び 男性が博志の目に飛び込んできた。
ロマンスグレーの髪が バスの黒い煙りで黒くなっていた。

博志の目には 初老の男性が若く見えた。

「逆浦島太郎現象だ」博志は笑った。(^O^)

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博志は あのポスターの玄関先にいた。

「確か 今日 金曜日が練習日だったよな。
でも こういうのって 前もって連絡しなきゃダメなんじゃなかったっけな。
でもさぁ なんかさぁ緊張するよな」

博志は しっかりメンテナンスされた楽器を 握りしめていた。

「でもさぁ 入団断られたら どうしようか。
やっぱり 止めようかな。緊張するなぁ」

博志は ポスターの玄関先に膝まづいた。
そして どうしようか どうしようか とブツブツ呟いている。
すると そこに 以前の女性が通り掛かった。
再び 女性は博志を変質者だと思い 走って逃げて行ってしまった。
そんな事とは知らず 博志は
「いや でも また あの日のように ステージに上がるんだ!」と言い
ふらっと立ち上がり ポスターのドアーを開けた。

すると 初めて来た時とは違っていた。
ベンチに座り目の前には ポスターではなく 下駄箱だった。
そして 辺りを見回した博志は 右側にドアーを発見した。

「あっ!このドアーを開ければ・・・。あの音楽の主が 練習してるんだ」

博志は緊張した。
心臓がドキドキ。爆発して今にも 口から飛び出しそうだ。

博志は目を閉じて 思い切りドアーを開けた。
そして 博志は自分の目も開けた。

博志は脱力感に浸り 苦笑いをした。そこは トイレだったf^_^;

博志は 用を足し 仕切り直すと 地階への階段を降りた。
またドアーが あり そこには なんじゃ こりゃー!の ポスターが。
博志は ゆっくりと目を閉じた。 そして 今度は 静かに それを開けた。

『ようこそ! 吹奏楽団せせらぎ へ!!!』 と女性の声がした。

博志は ゆっくりと目を開けた。
すると 団員一同 全員が 博志に向かって立っているのが 目に飛び込んだ。
女性の声に 間髪を置かず 指揮者であろう 男性がタクトで合図を送った。
その瞬間 老若男女 団員全員の声がした。

《ようこそ 吹奏楽団せせらぎへ》\^o^/

スタジオには音楽が 流れていた。

青い三角定規の『太陽がくれた季節』だった。 完

トロンボーン赤川博志じゃなかった。 中川仁志 f^_^;

vol.33 楽器を置いてしまった貴方へのメッセージ 《あの日 に・・・・》 第2話

短編小説 楽器を置いてしまった貴方へのメッセージ 《あの日に・・・・》 第2話

作:トロンボーン 中川

(前回のあらすじ)
ガソリンスタンドで働いていた主人公・博志は、軽自動車に軽油を給油して
仕事をクビになってしまう。
落ち込んだ博志をなぐさめる友人たちから、学生時代に博志が情熱を傾けた
トロンボーンをもう一度吹いてみることを勧められ、
博志は逆上して飲み屋を飛び出すが・・・

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「あ〜今日は よく飲んだよなぁ。
 だけど みんな よく覚えてるよなぁ。20年も昔の事。
 あの頃は楽しかったよなぁ。 俺もさぁ 昔は よくモテたんだけどなぁ。
 今なんか お腹はデブっと出てさぁ 頭はさぁ 頭は・・・・
 まっいっか 帽子被ってから解んないさ。

 グレン ミラーか。
 そう 昔 グレン ミラーの映画あったよな。
 今日は練習ナシ! 今からグレン ミラーを観に行くってさ。

 でも あの俳優さぁ ミラーに よく似てたよな。 誰だっけ あの俳優。
 確かジェームス何ってったかな。
 ジェームス ジェームス ジェームス ディーン。
 違うよ 違う。
 ジェームスススス あっそうそうジェームス スチュアートだ!

 カッコ良かったよなぁジェームス スチュアート。首を傾けてさぁ トロンボーン構えて。
 スッゴク 様になってんの。憧れちゃったよなぁ。
 でもさぁ 映画の中でさぁ グレン ミラーが トロンボーンを質草にしちゃってさぁ
 借金してやがんの。あれ笑っちゃったね。(^^)

 でもさ最後 泣いちゃったなぁ。
 最愛の妻へプレゼントの 茶色の小瓶ってアレンジ曲。
 結局さぁ飛行機事故で 死んじゃった後に演奏されたんだよな。
 なんかさぁ 胸が熱くなってさぁ。
 俺が ミラーの代わりに トロンボーン吹くんだって 思っちゃったもんな。」

博志は ブツブツと呟きながら歩いている。

博志は ふと 気分転換に いつもと違う道を歩きだした。
いつもなら バス停を過ぎ そのまま真っすぐに駅へ向かうのだが
今夜は 珍しく バス停を過ぎると 左へ 団地の方向へ歩いた。

「へ〜ぇ こんな道 あるんだ。どこへ 抜けるのかなぁ」
と 博志は呟きながら歩いた。

「へ〜ぇ こんな所に立体駐車場が・・・・」
と思いながら しばらく歩くと 車が4台駐車している建物に目が行った。
ふと その建物の玄関に自動販売機が あるのに気がついた。

「あ〜なんかさぁ のど渇いちゃったなぁ」
博志は デニムの左のポケットから ジャラジャラと小銭を取り出すと
100円1枚と50円1枚を 自動販売機の 金銭投入口に入れた。
博志は スポーツドリンクを 自動販売機から取り出すと また一気に飲みかけた。

その時 ふと 左側の 玄関のドアに目が行った。
そこには 1枚のポスターが貼付けてあった。
博志は 酔いの回った目を擦り ポスターに目をやった。

「ん〜。せせらぎコンサート。
 なんだこれ?
 なんじゃ こりゃー?なんじゃ こりゃー?」

と言いながら博志は膝まづき 松田優作の真似をしていると
通りかかった女性が 博志を変質者だと思ったのか 慌てて走って逃げて行った。
そんな事も知らずに 博志は 松田優作を演じていると
ドアーの向こうから 音楽が聞こえてきた。

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博志は ふらつきながら立ち上がると その音楽に引き寄せられ
玄関のドアーを開けていた。
博志は 右側に置いてあるベンチに 体を預けると また スポーツドリンクを飲んだ。
すると 玄関の中にも なんじゃ こりゃー! のポスターが
1枚貼付けてあるのに 気がついた。博志は ポスターに近づき 眺めている。

「へぇ〜。面白いポスターだねぇ。
 今年も せせらぎ は楽しいよ だって。 ホント楽しそうだねぇ。
 飛行機雲がseseragiって書いてんだ。 こんなの 誰がデザインするんだろうな。
 楽しいバンドなんだろうな。

 へぇ〜懐かしいなぁ 宇宙戦艦ヤマト演奏するんだ。
 古代く〜ん! 雪ーっ!ってね。子供心に 雪を見ると ドキドキしちゃったよ もーっ。f^_^;

 え〜〜 song for Japanって曲。
 なんじゃ こりゃー! ってさー 単純に 日本の歌なんだ。
 いや それだったら song of Japan だよな。

 そうそう日本の歌で思い出しちゃったよ。
 [ふるさと] いつもさぁ ライブの アンコールの2曲目に演奏したんだよなぁ。
 バンドのメンバーってさ結構 地方出身者が居てさ
 選曲のミーティングでラストは [ふるさと]演奏しようって決まったんだよな。
 ライブでさ 最後は全員総立ちで ふるさとの大合唱だったもんなぁ。
 ♪♪う〜さ〜ぎぃお〜いし か〜のぉや〜ま〜ぁ♪♪♪ ってな。
 懐かしいな。また大学生に なりてっ」

博志は ずっとポスターを眺めながら ブツブツと呟いている。

「だけどさぁ 就職しちゃって仕事 仕事の連続でさ
 まったく楽器吹けなくなってさ 気が付けば仕事の鬼に なってやがったよ。
 ある時にさ 気晴らしに楽器取り出して 吹いてみたんだけど
 ぜ〜んぜん 吹けなくなっちゃってて もう それっきり 楽器に触ってないよな。
 もう ずっと 押し入れの奥に 置いたままなんだよな。 もう いいやって。
 もう楽器吹く事ないって。

 さっき みんなに強がり言ってさ ホント俺 昔みたいにさ 楽器吹きたいんだよな。
 またさぁ ステージに立って ライブやりたいんだよね」

依然として 博志はポスターを眺めながら ブツブツ呟いていた。

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博志は 押し入れの奥から楽器を取り出した。

もう何年も 押し入れの肥やしになっている楽器。
博志は 埃まみれの楽器ケースを 畳の上に置いた。

すると 楽器ケースに積もった埃が宙を舞った。
博志は 少し埃を吸ったのか 思い切り咳をしてしまった。
これはダメだと思った博志は 掃除機で埃を吸い取った。
それから 水で濡らした雑巾を持ってきた。 博志は ゆっくりと それで 拭いた。

博志の楽器ケースは黒かった。
その黒い 楽器ケースに 何か書かれてあるのが 見えてきた。

白いマジックペンで 書かれていたが 長い時間の せいだろう 薄茶色く 変色していた。
博志は その変色した 薄茶色を右手でなぞりながら眺めていた。

その薄茶色の文字の上に 一粒の涙が落ちた。

その薄茶色は こう書かれてあった。

《青春の思い出・・・永遠に》

(つづく)

vol.32 楽器を置いてしまった貴方へのメッセージ 《あの日 に・・・・》 第1話

短編小説 楽器を置いてしまった貴方へのメッセージ 《あの日に・・・・》 第1話

作:トロンボーン 中川

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「君ねーっ!こんな事も出来ないんじゃ どこへ行っても務まらないよっ!ねー君!わかってるの?」(−_−#)

社長が怒った。

「はー すみませんm(__)m」
「はー すみませんじゃないよ!!ホントにっ!!」

また社長が怒った。

「・・・・・(*_*)」
「君ねーっ もう明日から来なくて いいから!クビだよ!クビ(-.-;)」

とうとうクビに、なってしまった。(*_*)

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「お前さぁー さっきから ボーっと しちゃってさぁー。みんな 今夜は お前のために集まってんだぜっ」
「そうよぉ〜ぉ 私なんてさぁー 女子会 断って来たんだよぉ〜ぉ。 ねぇ 博志君の好きな焼酎ロックよ。ねぇ 大学ん時みたいにさぁ 一気飲みしちゃってよ。そうそう 大学ん時にさー みんなで九州へ卒業旅行行った時にさぁ 生まれて初めて飲んだ焼酎に ベロンベロンに酔っ払ってさぁ みんなで介抱するの大変だったんだからぁ」
「そうだ もう一度 改めて乾杯しようぜ」

落ち込んだ博志のために友人が集まった。

「あっ!おねえさーん!生ビール!生ビール!」
「おー 博志よーぉ クヨクヨすんじゃねぇよ。 おめぇよーぉ。 やっちまったものは 仕方ねぇじゃねぇかよーぉ。 元気だせよなぁ 博志よーぉ」
「ハ〜イ ビールお待どーさまでしたーぁ」

女性店員が注文のビールと料理を運んで来た。

「ねぇ 博志君〜ん ビールきたわよぉ」 女友達が言う。
「おー 博志!乾杯だ 乾杯!!」
「乾杯ぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ぃ」(^O^)/
「おい!ちょっと 乾杯ぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ぃって 長くねぇか!」
アロハシャツにサングラスの友人が言った。
「ちょっとぉ あんたの方が長いよっ!」
「・・・・・m(__)m」

「ところで博志君 これから どうするのぉ 不景気でさー 仕事あるのかなぁ」
「俺さぁ 何やってもさー 失敗ばかりだもんなーっ 。俺なんか もうダメだよ。」
女友達の問い掛けに博志が答えた。

「そんな事ないわっ!ちょっと失敗しただけじゃなぁーい」
「いやさぁ ちょっとじゃないんだよ」
「え?」女友達が不思議な顔で博志を見た。

「あのさぁ お客様の 大切な軽自動車に 軽油を給油しちゃったんだもんなぁ。(*_*)俺さぁ 軽自動車は軽油で走るんだって 子供の時から思ってたんだよなぁ」

「・・・・・(−_−)」

女友達は何も言えなかった。

「だからよぉー 博志は スタンドは務まんないって 言ったのによーっ」
サングラスの友人が言う。
「あ〜あ ホント俺は 何を やってもダメな男だな」博志が肩を落として言うと。

「だけどさぁ お前さぁ 大学ん時 バンドやってたんだよな。いつもさぁ 革ジャン着てさぁ リーゼントだよ。すっげーロッカーじゃんって 思ったけどさぁ ホントはジャズメンだったじゃん!」
と博志の友人が言ってトイレに駆け込んだ。
「そうそう 博志君! バンド リーダーだったよね。なんてバンドだったっけ?」
「確かよーっ!赤川博志&スウィート スイングスだったよなっ!そうだよな 博志!」
サングラスの友人が博志の顔を覗くと。

(-.-)ZuZuZuZuZu

「まったくよーっ!コイツ 寝ちまいやがったぜ!よーっ博志ーっ 起きろよーっ」
博志の体を揺すると 女友達が言う。
「まぁ〜 博志君の寝顔カワイイ〜ぃp(^^)q」
「よーっ博志ーっ!」
(゜o゜)\(−_−#)
たまり兼ねたサングラスの友人が博志を叩いた
「もーぉ 叩かないで寝かしてあげなさいよーっ もーっ この酔っ払いーっ」
女友達がサングラスに怒った。

「おいおい 何騒いでんだぁ トイレまで まる聞こえだぜ!!」
「せっかく 博志の昔話してるってーのによーっ コイツ寝ちまいやがんの」
サングラスが博志を睨んだ。
「そうそう お前さぁ 大学ん時のバンドさぁ 確か 赤川博志&スウィートスイングスだったよな。あの グレン ミラーのコピーバンド」
「そうだったかな〜」博志が そっけなく言った。
「お前がさぁ バンドの前に立ってさぁ トロンボーン演奏するの。 カッコ良かったよなぁ」
「そうよーぉ。私の友達みんな博志君のファンだったんだから。もちろん私が一番のファンだったんだからねo(^-^)o」
女友達は今でも 博志に恋心を抱いているみたいであった。(#^.^#)
「そうそう あの ムーンライト セレナーデ。とっても素敵だったわ〜ぁ」
「そうだよな!あれって バンドがメロディー演奏するバージョンと 博志がソロでさぁ バンドが伴奏するバージョンが あったよな」
「そうそう 断然 博志君が 演奏するほうが良かったわ〜ぁ」
「あとさぁアメリカン パトロールとか ノリノリでさぁ ペンシルベニア6−5000の グリッサンドなんか最高だったぜ!」博志の友人がマグロの刺身を頬張りながら言う。

「ねぇ 博志く〜ん! またさあー ムーンライト聞かせてよーぉ」博志の女友達が ビールを一口飲んで そう言った。
「おー 博志よーぉ! 聞いてんのかよーぉ!!」
「聞いてるさ」
博志は 酔っ払いのサングラスに言った。ところが博志の返事は以外なものだった。

「さっきからさあー バンドが どうとかさあー もう 昔の話なんて どうでも いいんだよ! そんな昔の話なんて 忘れちまったよ!もう 20年も昔の話なんか・・・・」
博志が そう言いながら 焼酎を一気に飲み干した。

「お前さぁー あの トロンボーン どうしたんだよ 今でも 持ってんだろ!」
サングラスが 言った時。

「もう 捨てちまったよっ。 あんなの!どうでもいいんだ。面白くも なんとも ねーっ!何がトロンボーンだ グレン ミラーだ!」

そして 博志は「何が ムーンライ・・・」と 言いかけて やめてしまった。
女友達の顔が 目に入ったからである。

「もう やめたんだ!昔の事は もう忘れたんだ!今の俺はさ 何をやってもダメな男なんだよっ!それだけさっ」
と言って 博志は生ビールを 一気に飲み干した。
そして 唯一の財産であるロレックスの腕時計に 目をやった。

「もう こんな時間!俺帰らなきゃ」

と博志が 言いながら 立とうとした瞬間 酔いが回っていたのか ふらつきながら 右隣りに座っていた 女友達の方向へ倒れてしまった。
女友達は 瞬間の事だったので避け切れず 自分の顔と博志の顔が 当たってしまった。
その時 博志と女友達の唇が 触れ合ったように感じた。(つづく)

Vol.29 《ハイ!こちら せせらぎ音楽事務所です!!!》第1話

ジリリリ〜〜〜ン。
ジリリリ〜〜〜ン。

閑散としたデスクの上の 黒電話が鳴る。

ジリリリ〜〜〜ン。

懐かしい昭和の音が 6畳一間に響きわたる。

ジリリリ〜〜〜ン。
ジリリリ〜〜〜ン。

「すみませ〜ん 所長!私 今 手が離せないんです〜。電話に出て頂けます〜ぅ。」m(__)m
女性所員の織田信子が言う。

ジリリリ〜〜〜ン。
ジリリリ〜〜〜ン。

狭い事務所の一角にある 古い綻びたソファーに座り ウトウト居眠りする所長が
ハッ!と 目を覚ましたかと思えば (゜o゜) こんな顔して 辺りをキョロキョロ。

「所長!電話です! 電話に出て頂けますっ! 私 今 手が離せないんです!」(−_−#)

整理した書類の入った ダンボール箱を 両手で持ちながら織田信子が言う。
ようやく 我にかえった所長だが (´〜`) こんな顔して眠たそう。

「所長!寝ぼけてないで!電話 切れちゃいますから 早く 出て頂けますっ!」
「オッケー!今 出るから そう怒りなさんなって。」
所長が そう言って立ち上がろうとした。

「オ〜〜〜ぉo(><)o 痛ったたぁ〜〜〜!」

所長は 右手で腰を押さえ ソファーに 座り込んでしまった。

「所長!どうしたんですか?」(ノ゜O゜)ノ

慌てて 女性所員の織田信子が ソファーのところへ駆け寄ってきた。
再び 所長が

「痛た〜〜〜ぁいっ!」o(><)o

こんな顔で 叫んだ。
女性所員の織田信子が 下を見ると 所長の足の上に 書類の詰まったダンボール箱があった。(^^ゞ

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ジリリリ〜〜〜ン
ジリリリ〜〜〜ン

黒電話は 鳴りっぱなしである。なかなか出てくれないから黒電話もイライラしはじめたらしい。 

ジリジリジリジリジリ〜〜〜ン
ジリジリジリジリジリ〜〜〜ン

「ハイ!こちら・・・・・」 プ−プ−プ−プ−プ−
「あ−ん 切れちゃった」(*_*)
「も−ぉ!所長が 居眠りしてるから電話切れちゃったじゃないですか−っ! 一ヶ月振りの電話だったんですよっ! ほんとに も−っ!」

所長は 右手で腰を摩りながら 。
「ゴメン!ゴメン! そう怒りなさんな。家賃の催促だよ。きっと。」
そう言うと
「コーヒーでも どお?少し休憩でもしたら。 最近 整理で忙しいからね。どお!僕が 入れてあげるから ソファーに座って(^_^)」
所長が右手で腰を摩りながら 女性所員の織田信子 お気に入りの綺麗な花柄のコーヒーカップに コーヒーを注いだ。

「所長 すみません。さっき 足の上に落としちゃって。」m(__)m
「いいんだよ そんな事 気にしなくったって。」\(^^:;)
所長はニコニコしながら 東京都内で一番有名なコーヒーショップで 買ってきたコーヒーを注いだ花柄のカップを 女性所員の織田信子に渡した。
「所長 ありがとうございます。」
そう言って インドネシア産の煎れたての コーヒーを口にした。
「でも所長 さっきの電話 ホントは誰だったんでしょうね。大口の依頼だったら 惜しい事を しましたわ(´〜`;)」
と 言いながら 女性所員の織田信子が インドネシア産のコーヒーを口へ運んだ。
「まぁ いいじゃないか。もう 月末で この事務所も閉めるんだからさ。長い間 僕に付き合ってくれて ありがとう。ホント感謝してるよ」m(__)m
所長は インドネシア産のコーヒーを 自分のカップに注ぎながら言う。
「景気の良かった時代が懐かしいですわ。 めっきり仕事が減って 今じゃ家賃も払えないんですもの。」(>_<) 「さぁ!一息ついたら僕も手伝うよ 織田信子さん」(^O^)/ と 二人の会話に割って入るかのように また例の黒電話が鳴った。 ジリリリ〜〜〜〜ン ジリリリ〜〜〜〜ン 「あっ電話!今度は 僕が出るよ!」(^_^) 所長は 右手で腰を摩りながら 黒電話の受話器を取った。 《ハイ!こちら せせらぎ音楽事務所です!!!》 と 所長の徳川光男が言った。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 「あの〜ぉ わたくし 京都で活動しております 吹奏楽団せせらぎの 真田幸子と申します。」m(__)m 黒電話の向こうで 女性の声がした。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜   つづく この物語は 半分フィクションであり 登場する人物 時代背景 等は ご想像に お任せします  提供は トロンボーン中川  以上のスポンサーで お贈りしました。