vol.34 楽器を置いてしまった貴方へのメッセージ 《あの日に・・・・ 》 第3話・完

短編小説 楽器を置いてしまった貴方へのメッセージ 《あの日に・・・・》 第3話・完

(前回までのあらすじ)  (≫第1話 ≫第2話
仕事をクビになった主人公・博志は、学生時代に情熱を傾けたトロンボーンや、
お気に入りだった「ムーンライト・セレナーデ」のことを思い出す。
帰り道、いつもと違う路地を歩く博志が出会ったのは、
「せせらぎコンサート」のポスターと、音楽が聞こえてくる練習スタジオだった。
博志は、久しぶりに押し入れの奥からトロンボーンを取り出し、一人涙するのだった。

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「それでは 赤川博志さん。明日から勤務して 頂きます」

博志は再就職が決まった。
軽自動車に軽油を給油してから 1ヶ月が経っていた。

博志は 就職が決まった事で 気分が落ち着いたのか 町へ出て食事をした。
食事を終えて 町一番のショッピング センターで買い物をしていると
どこからか 音楽が聞こえてきた。
博志は その方向へ足を向け 辿り着いたのは
ショッピング センターの 多目的広場だった。

そこでは 近くの大学のバンドが 演奏を繰り広げている。
博志は 一つだけ空いてる席に腰を下ろした。
今 演奏されているのはベニー グッドマンのレッツ ダンス。
クラリネット奏者が フロントに出てソロを吹きだした。
博志は思わず 昔の自分と照らし合わせている。
自然と勝手に身体が動き スウィングしている自分がいた。
レッツ ダンスの演奏が終わると
クラリネット奏者が 買い物客の聴衆に向かって 挨拶をしている。
博志も そのクラリネットに拍手を送った。
それから デュークエリントンのA列車で行こう の演奏が終わって
司会者が次の曲を紹介した。

ムーンライト セレナーデだ。

演奏が始まると アルト サックスが 気持ちのいい ビブラートをかけながら
演奏している。博志は羨望の眼差しで見つめていた。

博志は立ち上がり その場を 後にした。

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「確か あのポスター。団員募集って書いて あったよな」

博志は もう封印してしまった 楽器を取り出し 各部分のチェックをした。
「何年も吹いてないからな。あの楽器屋 今でもやってるかなぁ。
もう 20年だからな」

博志は 楽器を片手に電車に乗り 大学時代に通った楽器屋へ出掛けた。
1時間半 電車に揺られた。

博志が 駅を出ると 町は変わっていた。

「やっぱり もう あの楽器屋 無いよな。もう20年だからな。
あの 定食屋も あのアパートも無くなってるんだ。
あの定食屋の おばちゃん いつもコロッケ2つ サービスして貰ってさ
優しい おばちゃんだったよな。でも おばちゃん 心臓が悪いって 言ったから・・・・」

博志は 駅前からバスに乗った。
バスは心地好く揺れていて いかにも田舎のバスだ。
都会から払い下げになった 型の古い大きなバスには
たった5人の乗客と もう定年間近だろう運転手だけだ。
博志も その乗客の一人だった。
バスの運賃250円を運賃箱に入れると
箱の中で動いているベルトが 250円を 飲み込んだ。

「あ〜 やっと着いたよ ホント 疲れちゃった」

博志が言うと 古いバスは黒い煙りを 撒き散らしながら ゆっくり走り出した。
楽器屋は ここから少し歩いた 道路沿いにある。

博志は 通い慣れた道を歩いた。楽器屋だけは 20年前と同じだった。

「ごめんくださ〜い!」
博志が言うと 奥から初老の男性が現れた。
ロマンスグレーの素敵な髪型でオシャレなのは20年前と変わっていなかった。

「お久しぶりです。スウィート スイングスの赤川です」
博志が満面の 笑顔で言った。
初老の男性は「よく 来てくれたね!」と言い 博志を招き入れた。

博志と 初老の男性は1時間程 語り合った。
「楽しそうなバンド見つけちゃったんです。 20年振りに バンドやろうと思って・・・・・」

博志は 初老の男性がメンテナンスした楽器を片手に
丁重な挨拶をし バスに乗り込んだ。
そして 型の古いバスは 再び黒い煙りを撒き散らした。
博志はバスの後ろの席からロマンスグレーの男性に手を振りながら
何度も何度もお辞儀をした。

ところがバスの黒い煙りで男性が見えなくなってしまった。

その時 風が吹いた。
古いバスが 撒き散らした黒い煙りは 一瞬にして無くなってしまい
再び 男性が博志の目に飛び込んできた。
ロマンスグレーの髪が バスの黒い煙りで黒くなっていた。

博志の目には 初老の男性が若く見えた。

「逆浦島太郎現象だ」博志は笑った。(^O^)

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博志は あのポスターの玄関先にいた。

「確か 今日 金曜日が練習日だったよな。
でも こういうのって 前もって連絡しなきゃダメなんじゃなかったっけな。
でもさぁ なんかさぁ緊張するよな」

博志は しっかりメンテナンスされた楽器を 握りしめていた。

「でもさぁ 入団断られたら どうしようか。
やっぱり 止めようかな。緊張するなぁ」

博志は ポスターの玄関先に膝まづいた。
そして どうしようか どうしようか とブツブツ呟いている。
すると そこに 以前の女性が通り掛かった。
再び 女性は博志を変質者だと思い 走って逃げて行ってしまった。
そんな事とは知らず 博志は
「いや でも また あの日のように ステージに上がるんだ!」と言い
ふらっと立ち上がり ポスターのドアーを開けた。

すると 初めて来た時とは違っていた。
ベンチに座り目の前には ポスターではなく 下駄箱だった。
そして 辺りを見回した博志は 右側にドアーを発見した。

「あっ!このドアーを開ければ・・・。あの音楽の主が 練習してるんだ」

博志は緊張した。
心臓がドキドキ。爆発して今にも 口から飛び出しそうだ。

博志は目を閉じて 思い切りドアーを開けた。
そして 博志は自分の目も開けた。

博志は脱力感に浸り 苦笑いをした。そこは トイレだったf^_^;

博志は 用を足し 仕切り直すと 地階への階段を降りた。
またドアーが あり そこには なんじゃ こりゃー!の ポスターが。
博志は ゆっくりと目を閉じた。 そして 今度は 静かに それを開けた。

『ようこそ! 吹奏楽団せせらぎ へ!!!』 と女性の声がした。

博志は ゆっくりと目を開けた。
すると 団員一同 全員が 博志に向かって立っているのが 目に飛び込んだ。
女性の声に 間髪を置かず 指揮者であろう 男性がタクトで合図を送った。
その瞬間 老若男女 団員全員の声がした。

《ようこそ 吹奏楽団せせらぎへ》\^o^/

スタジオには音楽が 流れていた。

青い三角定規の『太陽がくれた季節』だった。 完

トロンボーン赤川博志じゃなかった。 中川仁志 f^_^;

vol.33 楽器を置いてしまった貴方へのメッセージ 《あの日 に・・・・》 第2話

短編小説 楽器を置いてしまった貴方へのメッセージ 《あの日に・・・・》 第2話

作:トロンボーン 中川

(前回のあらすじ)
ガソリンスタンドで働いていた主人公・博志は、軽自動車に軽油を給油して
仕事をクビになってしまう。
落ち込んだ博志をなぐさめる友人たちから、学生時代に博志が情熱を傾けた
トロンボーンをもう一度吹いてみることを勧められ、
博志は逆上して飲み屋を飛び出すが・・・

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「あ〜今日は よく飲んだよなぁ。
 だけど みんな よく覚えてるよなぁ。20年も昔の事。
 あの頃は楽しかったよなぁ。 俺もさぁ 昔は よくモテたんだけどなぁ。
 今なんか お腹はデブっと出てさぁ 頭はさぁ 頭は・・・・
 まっいっか 帽子被ってから解んないさ。

 グレン ミラーか。
 そう 昔 グレン ミラーの映画あったよな。
 今日は練習ナシ! 今からグレン ミラーを観に行くってさ。

 でも あの俳優さぁ ミラーに よく似てたよな。 誰だっけ あの俳優。
 確かジェームス何ってったかな。
 ジェームス ジェームス ジェームス ディーン。
 違うよ 違う。
 ジェームスススス あっそうそうジェームス スチュアートだ!

 カッコ良かったよなぁジェームス スチュアート。首を傾けてさぁ トロンボーン構えて。
 スッゴク 様になってんの。憧れちゃったよなぁ。
 でもさぁ 映画の中でさぁ グレン ミラーが トロンボーンを質草にしちゃってさぁ
 借金してやがんの。あれ笑っちゃったね。(^^)

 でもさ最後 泣いちゃったなぁ。
 最愛の妻へプレゼントの 茶色の小瓶ってアレンジ曲。
 結局さぁ飛行機事故で 死んじゃった後に演奏されたんだよな。
 なんかさぁ 胸が熱くなってさぁ。
 俺が ミラーの代わりに トロンボーン吹くんだって 思っちゃったもんな。」

博志は ブツブツと呟きながら歩いている。

博志は ふと 気分転換に いつもと違う道を歩きだした。
いつもなら バス停を過ぎ そのまま真っすぐに駅へ向かうのだが
今夜は 珍しく バス停を過ぎると 左へ 団地の方向へ歩いた。

「へ〜ぇ こんな道 あるんだ。どこへ 抜けるのかなぁ」
と 博志は呟きながら歩いた。

「へ〜ぇ こんな所に立体駐車場が・・・・」
と思いながら しばらく歩くと 車が4台駐車している建物に目が行った。
ふと その建物の玄関に自動販売機が あるのに気がついた。

「あ〜なんかさぁ のど渇いちゃったなぁ」
博志は デニムの左のポケットから ジャラジャラと小銭を取り出すと
100円1枚と50円1枚を 自動販売機の 金銭投入口に入れた。
博志は スポーツドリンクを 自動販売機から取り出すと また一気に飲みかけた。

その時 ふと 左側の 玄関のドアに目が行った。
そこには 1枚のポスターが貼付けてあった。
博志は 酔いの回った目を擦り ポスターに目をやった。

「ん〜。せせらぎコンサート。
 なんだこれ?
 なんじゃ こりゃー?なんじゃ こりゃー?」

と言いながら博志は膝まづき 松田優作の真似をしていると
通りかかった女性が 博志を変質者だと思ったのか 慌てて走って逃げて行った。
そんな事も知らずに 博志は 松田優作を演じていると
ドアーの向こうから 音楽が聞こえてきた。

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博志は ふらつきながら立ち上がると その音楽に引き寄せられ
玄関のドアーを開けていた。
博志は 右側に置いてあるベンチに 体を預けると また スポーツドリンクを飲んだ。
すると 玄関の中にも なんじゃ こりゃー! のポスターが
1枚貼付けてあるのに 気がついた。博志は ポスターに近づき 眺めている。

「へぇ〜。面白いポスターだねぇ。
 今年も せせらぎ は楽しいよ だって。 ホント楽しそうだねぇ。
 飛行機雲がseseragiって書いてんだ。 こんなの 誰がデザインするんだろうな。
 楽しいバンドなんだろうな。

 へぇ〜懐かしいなぁ 宇宙戦艦ヤマト演奏するんだ。
 古代く〜ん! 雪ーっ!ってね。子供心に 雪を見ると ドキドキしちゃったよ もーっ。f^_^;

 え〜〜 song for Japanって曲。
 なんじゃ こりゃー! ってさー 単純に 日本の歌なんだ。
 いや それだったら song of Japan だよな。

 そうそう日本の歌で思い出しちゃったよ。
 [ふるさと] いつもさぁ ライブの アンコールの2曲目に演奏したんだよなぁ。
 バンドのメンバーってさ結構 地方出身者が居てさ
 選曲のミーティングでラストは [ふるさと]演奏しようって決まったんだよな。
 ライブでさ 最後は全員総立ちで ふるさとの大合唱だったもんなぁ。
 ♪♪う〜さ〜ぎぃお〜いし か〜のぉや〜ま〜ぁ♪♪♪ ってな。
 懐かしいな。また大学生に なりてっ」

博志は ずっとポスターを眺めながら ブツブツと呟いている。

「だけどさぁ 就職しちゃって仕事 仕事の連続でさ
 まったく楽器吹けなくなってさ 気が付けば仕事の鬼に なってやがったよ。
 ある時にさ 気晴らしに楽器取り出して 吹いてみたんだけど
 ぜ〜んぜん 吹けなくなっちゃってて もう それっきり 楽器に触ってないよな。
 もう ずっと 押し入れの奥に 置いたままなんだよな。 もう いいやって。
 もう楽器吹く事ないって。

 さっき みんなに強がり言ってさ ホント俺 昔みたいにさ 楽器吹きたいんだよな。
 またさぁ ステージに立って ライブやりたいんだよね」

依然として 博志はポスターを眺めながら ブツブツ呟いていた。

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博志は 押し入れの奥から楽器を取り出した。

もう何年も 押し入れの肥やしになっている楽器。
博志は 埃まみれの楽器ケースを 畳の上に置いた。

すると 楽器ケースに積もった埃が宙を舞った。
博志は 少し埃を吸ったのか 思い切り咳をしてしまった。
これはダメだと思った博志は 掃除機で埃を吸い取った。
それから 水で濡らした雑巾を持ってきた。 博志は ゆっくりと それで 拭いた。

博志の楽器ケースは黒かった。
その黒い 楽器ケースに 何か書かれてあるのが 見えてきた。

白いマジックペンで 書かれていたが 長い時間の せいだろう 薄茶色く 変色していた。
博志は その変色した 薄茶色を右手でなぞりながら眺めていた。

その薄茶色の文字の上に 一粒の涙が落ちた。

その薄茶色は こう書かれてあった。

《青春の思い出・・・永遠に》

(つづく)

vol.32 楽器を置いてしまった貴方へのメッセージ 《あの日 に・・・・》 第1話

短編小説 楽器を置いてしまった貴方へのメッセージ 《あの日に・・・・》 第1話

作:トロンボーン 中川

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「君ねーっ!こんな事も出来ないんじゃ どこへ行っても務まらないよっ!ねー君!わかってるの?」(−_−#)

社長が怒った。

「はー すみませんm(__)m」
「はー すみませんじゃないよ!!ホントにっ!!」

また社長が怒った。

「・・・・・(*_*)」
「君ねーっ もう明日から来なくて いいから!クビだよ!クビ(-.-;)」

とうとうクビに、なってしまった。(*_*)

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「お前さぁー さっきから ボーっと しちゃってさぁー。みんな 今夜は お前のために集まってんだぜっ」
「そうよぉ〜ぉ 私なんてさぁー 女子会 断って来たんだよぉ〜ぉ。 ねぇ 博志君の好きな焼酎ロックよ。ねぇ 大学ん時みたいにさぁ 一気飲みしちゃってよ。そうそう 大学ん時にさー みんなで九州へ卒業旅行行った時にさぁ 生まれて初めて飲んだ焼酎に ベロンベロンに酔っ払ってさぁ みんなで介抱するの大変だったんだからぁ」
「そうだ もう一度 改めて乾杯しようぜ」

落ち込んだ博志のために友人が集まった。

「あっ!おねえさーん!生ビール!生ビール!」
「おー 博志よーぉ クヨクヨすんじゃねぇよ。 おめぇよーぉ。 やっちまったものは 仕方ねぇじゃねぇかよーぉ。 元気だせよなぁ 博志よーぉ」
「ハ〜イ ビールお待どーさまでしたーぁ」

女性店員が注文のビールと料理を運んで来た。

「ねぇ 博志君〜ん ビールきたわよぉ」 女友達が言う。
「おー 博志!乾杯だ 乾杯!!」
「乾杯ぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ぃ」(^O^)/
「おい!ちょっと 乾杯ぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ぃって 長くねぇか!」
アロハシャツにサングラスの友人が言った。
「ちょっとぉ あんたの方が長いよっ!」
「・・・・・m(__)m」

「ところで博志君 これから どうするのぉ 不景気でさー 仕事あるのかなぁ」
「俺さぁ 何やってもさー 失敗ばかりだもんなーっ 。俺なんか もうダメだよ。」
女友達の問い掛けに博志が答えた。

「そんな事ないわっ!ちょっと失敗しただけじゃなぁーい」
「いやさぁ ちょっとじゃないんだよ」
「え?」女友達が不思議な顔で博志を見た。

「あのさぁ お客様の 大切な軽自動車に 軽油を給油しちゃったんだもんなぁ。(*_*)俺さぁ 軽自動車は軽油で走るんだって 子供の時から思ってたんだよなぁ」

「・・・・・(−_−)」

女友達は何も言えなかった。

「だからよぉー 博志は スタンドは務まんないって 言ったのによーっ」
サングラスの友人が言う。
「あ〜あ ホント俺は 何を やってもダメな男だな」博志が肩を落として言うと。

「だけどさぁ お前さぁ 大学ん時 バンドやってたんだよな。いつもさぁ 革ジャン着てさぁ リーゼントだよ。すっげーロッカーじゃんって 思ったけどさぁ ホントはジャズメンだったじゃん!」
と博志の友人が言ってトイレに駆け込んだ。
「そうそう 博志君! バンド リーダーだったよね。なんてバンドだったっけ?」
「確かよーっ!赤川博志&スウィート スイングスだったよなっ!そうだよな 博志!」
サングラスの友人が博志の顔を覗くと。

(-.-)ZuZuZuZuZu

「まったくよーっ!コイツ 寝ちまいやがったぜ!よーっ博志ーっ 起きろよーっ」
博志の体を揺すると 女友達が言う。
「まぁ〜 博志君の寝顔カワイイ〜ぃp(^^)q」
「よーっ博志ーっ!」
(゜o゜)\(−_−#)
たまり兼ねたサングラスの友人が博志を叩いた
「もーぉ 叩かないで寝かしてあげなさいよーっ もーっ この酔っ払いーっ」
女友達がサングラスに怒った。

「おいおい 何騒いでんだぁ トイレまで まる聞こえだぜ!!」
「せっかく 博志の昔話してるってーのによーっ コイツ寝ちまいやがんの」
サングラスが博志を睨んだ。
「そうそう お前さぁ 大学ん時のバンドさぁ 確か 赤川博志&スウィートスイングスだったよな。あの グレン ミラーのコピーバンド」
「そうだったかな〜」博志が そっけなく言った。
「お前がさぁ バンドの前に立ってさぁ トロンボーン演奏するの。 カッコ良かったよなぁ」
「そうよーぉ。私の友達みんな博志君のファンだったんだから。もちろん私が一番のファンだったんだからねo(^-^)o」
女友達は今でも 博志に恋心を抱いているみたいであった。(#^.^#)
「そうそう あの ムーンライト セレナーデ。とっても素敵だったわ〜ぁ」
「そうだよな!あれって バンドがメロディー演奏するバージョンと 博志がソロでさぁ バンドが伴奏するバージョンが あったよな」
「そうそう 断然 博志君が 演奏するほうが良かったわ〜ぁ」
「あとさぁアメリカン パトロールとか ノリノリでさぁ ペンシルベニア6−5000の グリッサンドなんか最高だったぜ!」博志の友人がマグロの刺身を頬張りながら言う。

「ねぇ 博志く〜ん! またさあー ムーンライト聞かせてよーぉ」博志の女友達が ビールを一口飲んで そう言った。
「おー 博志よーぉ! 聞いてんのかよーぉ!!」
「聞いてるさ」
博志は 酔っ払いのサングラスに言った。ところが博志の返事は以外なものだった。

「さっきからさあー バンドが どうとかさあー もう 昔の話なんて どうでも いいんだよ! そんな昔の話なんて 忘れちまったよ!もう 20年も昔の話なんか・・・・」
博志が そう言いながら 焼酎を一気に飲み干した。

「お前さぁー あの トロンボーン どうしたんだよ 今でも 持ってんだろ!」
サングラスが 言った時。

「もう 捨てちまったよっ。 あんなの!どうでもいいんだ。面白くも なんとも ねーっ!何がトロンボーンだ グレン ミラーだ!」

そして 博志は「何が ムーンライ・・・」と 言いかけて やめてしまった。
女友達の顔が 目に入ったからである。

「もう やめたんだ!昔の事は もう忘れたんだ!今の俺はさ 何をやってもダメな男なんだよっ!それだけさっ」
と言って 博志は生ビールを 一気に飲み干した。
そして 唯一の財産であるロレックスの腕時計に 目をやった。

「もう こんな時間!俺帰らなきゃ」

と博志が 言いながら 立とうとした瞬間 酔いが回っていたのか ふらつきながら 右隣りに座っていた 女友達の方向へ倒れてしまった。
女友達は 瞬間の事だったので避け切れず 自分の顔と博志の顔が 当たってしまった。
その時 博志と女友達の唇が 触れ合ったように感じた。(つづく)