旅の本2014年8月13日

あと数年で定年退職となる、
M浦さんという会社の先輩がおられます。
よく呑みに連れて行ってもらいました。
そのうちの一軒には今でも私一人で通い続けています。

M浦さんはすごくせっかちな人なんですが、
自分では「スローライフを標榜している」と言い切るのです。
周りで見ていると、そのズレ加減がおかしくてしようがありません。
(酔ってくるとメガネまでズレてくるのです)

まあ、生き方は人それぞれやから、
私がどうのこうの言うつもりはないんですが、
ただひとつだけ、どうしても理解できないことがありました。
それは、読み終えた本をすぐに捨ててしまうことです。

一緒に出張に行ったりすると、
読み終えた文庫本を捨ててしまったりするのです。
M浦さんの言い分は「少しでも荷物を減らしたい」ということなのです。

私の父は読書家でした。
本を読み終えたら、その日付のスタンプを押し、
わざわざ作ってある蔵書印も押して書棚にしまうのです。

私も子供の頃は父の真似をして、
スタンプと蔵書印を借りて押したものでした。
さすがに最近はそこまでマメなことはしませんが、
ちゃんと書棚に片付けます。
そして、ふっと気になって読み返したりします。
書棚がどうしようもなく詰まってきたら、
泣く泣く古本屋さんに売ります。
決して捨てるようなことはしません。

M浦さんが社で本を捨てようとしていたとき、
「捨てるくらいやったら僕にくれませんか?」って言ってもらったのが、
温泉に関する本でした。
以来、M浦さんは、
旅や温泉に関する本や雑誌を私にくれるようになりました。
私が全国の温泉について詳しくなっていったのは、
すべてM浦さんのおかげなのです。

先日、社の後輩のM本くんが、
「机の引き出しから、こんなん出てきました」と言ってみせてくれたのは、
『「極み」の日本旅館 いま、どこに泊まるべきか』という新書でした。
元・M浦さんの本に間違いありません。
いろんな人に本をばら撒いてたんですな。

M本くんは別に興味ないというので、
私がかっぱらって読むことにしました。

2003年に刊行されたものですが、
いやはや、まったく古い内容ではありませんでした。
私が旅に求めるもの、つまり、
「非日常への脱出」について述べられているのでした。
頷くことの多い本でした。

読み終えたこの本、決して捨てません。