『シンフォニア・ノビリッシマ』楽譜の成立過程2013年11月26日

楽団所有の、ロバード・ジェイガー作曲『シンフォニア・ノビリッシマ』の楽譜。
パート譜はいいんですが、スコアは状態が良くありません。
そこで、実は個人的にフル・セットを持っています。
2001年の第14回せせらぎコンサートでこの曲を採り上げた際に購入したのです。
使用したのはスコアだけですが。

楽譜に書かれた情報によると、
この曲の版権は1968年にアメリカの Elkan-Vogel という出版社が取得したようです。
日本での版権は音楽之友社が持っているようです。

2001年に私が購入したのは Elkan-Vogel の版です。
楽器屋さんに頼んで、アメリカから取り寄せてもらいました。
楽団所有の楽譜は音楽之友社版です。

つまり、
指揮者である私が見ているのは Elkan-Vogel のスコアで、
プレイヤーの皆さんが見ているのは音楽之友社のパート譜、
ということになります。

Elkan-Vogel のスコアを解析していて、
音がおかしい箇所がいくつかあるのです。
例えば、
E♭クラリネットやアルト・サックスなどのE♭管の楽器で、
実音(「絶対音」という言い方でもいいでしょう)のB♭を鳴らそうとすると、
「ソ」と書いてなくちゃならない。
ところが、 Elkan-Vogel のスコアでは、
「ファ♯」と書かれていたりするのです。
漫然と読んでいるとつい見逃してしまいそうですが、
「ファ」なら「ファ」でもいいけど、
「ファのダブル♯」じゃないといけません。

済みません、ちょいと難しくなりましたね。。。

でも、プロの作曲家でも勘違いしてしまいやすいポイントなんです、
移調というのは。
当の本人は「B♭」のつもりで「ファ♯」と書いてしまったと推察します。

そこで、です!
音楽之友社版のパート譜を使って演奏しているプレイヤーの皆さんの音が濁るかというと、
全くそうではないんです。
「出版社が違うだけで、中身は一緒やろ?
 そやったら、濁らなあかんやん!
 何で?何で?」

問題となるいくつかのパートに問合せてみたところ、
パート譜は問題ないのです。
音が濁らないのはいいことだけど、
いよいよ謎は深まるばかり。

これはもう、 Elkan-Vogel 版と音楽之友社版を見比べるしかない!
ということで、
楽譜係にお願いして楽団所有の楽譜を借りました。

ここで驚くべき事実が判明しました。
音楽之友社版は、スコアもパート譜も、
音の間違いがことごとく直してあるのです!

おそらく、 Elkan-Vogel 社から日本での版権を買った際、
音楽之友社の担当者は楽譜を徹底的に調べ上げたのだと思います。
独自の判断で修正したのか、
ロバート・ジェイガーさんに確認のうえ修正したのかは分かりませんが、
とにかく音楽之友社版は修正され尽くしていたのです!

もしも楽団所有のスコアの状態が良くて、
私が Elkan-Vogel の楽譜を買うことがなかったら、
こういった楽譜の「歴史」を知ることはなかったでしょう。
いや~、いい勉強になりました。

ただし、音楽之友社版には、
理論上は合っているんだけれども、
その音域での音のぶつかりを配慮して、
ジェイガーさんが敢えて理論からはずしたと思われる音符まで、
理論にはめて修正したと思われる箇所があります。
今のところ『シンフォニア・ノビリッシマ』は合奏上は「寝かせて」ありますので、
次に「起きる」ときまでに私なりの校訂版を配りたいと思っています。

ところで、なぜ12年前に気付かなかったのかって?
いやいや、あの頃は勉強不足で…